セナはいつも、すごく優しく笑う。
話すときの瞳は暖かくて、でも指先はちょっと冷たくて。
性格は、少し抜けてるけど、話す言葉に芯がある人。
本当に正しいことが何かはぜんぶ、セナが知っているような気がする。
……なんてセナに言ったら、『大げさだよ』って笑っていたけど。
私は、そんなセナの話を聞いてると落ち着くし、声も何か、人を落ち着かせる魔法があるような気がしている。
だってすごく心地よくて、ずっと聞いていたく───。
「ねえスミ、俺ってそんなにサバ臭い?」
───ちょっと、前言撤回。
放課後、誰もいない図書室。
うたた寝から目覚めてすぐ、深刻な雰囲気でそんな訳の分からない話を投げられたので、つい怪訝な目を向けてしまった。
けどセナは変わらず、組んだ手を机にひじついて、口元を隠しながら俯いている。
変なひとだなあ、と思いながらその様子を見つめた。
「しかもサバ飯って何?サバ単体じゃなく米が加わった匂いってこと……?つまりどう違うの……?」
「セナ、今日セナの言ってることぜんぶ意味わかんなかったけど、今のが一番分かんないよ」
「うん、そうだよねでもちょっと待ってね俺も混乱……えっ、待って全部わかってなかったの?」
ようやくこっちを見たセナの丸い目が、百面相みたいでちょっと面白い。
ふふ、って笑ったら、ふふじゃないよ、と軽く怒られた。
次のテストで赤点を取ったら、私に夏休みは無いらしい。
本当かどうかわからないけど、数学の先生にそう言われた。
だからさっきまで、理数の得意なセナが教えてくれていたのだけど。
ナントカ関数、ナントカを代入してナントカ……みたいな呪文を聞いているうちに、頭がふわふわしてきて。
気が付けば今、逆にいつもの二倍くらい目が開いているから、いつの間にか寝てしまっていたみたいだ。
セナには申し訳ないけど、ちょっと数学って違う星の学問すぎる。
XとYはアルファベットであって数字じゃないし、あんな山みたいな曲線で計算しなきゃいけないような生活を送る予定はない。
口をとがらせながらセナにそう伝えようとしたら、ばっちり視線が重なった。
「……スミ、今、すごい屁理屈を考えてない?」
「え、なんでわかるの……」
「スミほど分かりやすい人はいないよ」
「……大丈夫だよ、次の次できっと挽回できるよ!」
「ポジティブなのは良いことだけど、スミが挽回するべきなのはもう次のテストだと思うよ」
「……そうだセナ、サバの匂いってなに?」
「……スミは誤魔化すのが下手だよね、昔から。あとそれは今ちょっとセンシティブだから触れないでおこう」
「じゃあセナは、誤魔化すの上手なの?」
「……うーん、どうかな」
言葉に迷うように、それでいて答えは決まっているみたいに。
ゆっくり、伏せられていくセナの目。
「俺はスミに、誤魔化すことなんてなかったから」
……”なかった”。
普通の言葉のはずなのに、なんだかやけに耳に残った。
だって、これからはあるって、分かっているみたいな言い方だ。
なんだかその横顔が、今にも消えちゃいそうな気がして、少し怖くなる。
縋るようにセナ、と短く呼べば、『ん?』って優しい視線が返された。
その表情はもう、いつも通りのセナだ。
……気のせいだったのかな。
でも、私、その笑顔を、前にも見たことがある気がするの。
「……ねえ、夏休み、セナは何するか決めたの?」
その問いにセナはただ、笑うだけだった。
話すときの瞳は暖かくて、でも指先はちょっと冷たくて。
性格は、少し抜けてるけど、話す言葉に芯がある人。
本当に正しいことが何かはぜんぶ、セナが知っているような気がする。
……なんてセナに言ったら、『大げさだよ』って笑っていたけど。
私は、そんなセナの話を聞いてると落ち着くし、声も何か、人を落ち着かせる魔法があるような気がしている。
だってすごく心地よくて、ずっと聞いていたく───。
「ねえスミ、俺ってそんなにサバ臭い?」
───ちょっと、前言撤回。
放課後、誰もいない図書室。
うたた寝から目覚めてすぐ、深刻な雰囲気でそんな訳の分からない話を投げられたので、つい怪訝な目を向けてしまった。
けどセナは変わらず、組んだ手を机にひじついて、口元を隠しながら俯いている。
変なひとだなあ、と思いながらその様子を見つめた。
「しかもサバ飯って何?サバ単体じゃなく米が加わった匂いってこと……?つまりどう違うの……?」
「セナ、今日セナの言ってることぜんぶ意味わかんなかったけど、今のが一番分かんないよ」
「うん、そうだよねでもちょっと待ってね俺も混乱……えっ、待って全部わかってなかったの?」
ようやくこっちを見たセナの丸い目が、百面相みたいでちょっと面白い。
ふふ、って笑ったら、ふふじゃないよ、と軽く怒られた。
次のテストで赤点を取ったら、私に夏休みは無いらしい。
本当かどうかわからないけど、数学の先生にそう言われた。
だからさっきまで、理数の得意なセナが教えてくれていたのだけど。
ナントカ関数、ナントカを代入してナントカ……みたいな呪文を聞いているうちに、頭がふわふわしてきて。
気が付けば今、逆にいつもの二倍くらい目が開いているから、いつの間にか寝てしまっていたみたいだ。
セナには申し訳ないけど、ちょっと数学って違う星の学問すぎる。
XとYはアルファベットであって数字じゃないし、あんな山みたいな曲線で計算しなきゃいけないような生活を送る予定はない。
口をとがらせながらセナにそう伝えようとしたら、ばっちり視線が重なった。
「……スミ、今、すごい屁理屈を考えてない?」
「え、なんでわかるの……」
「スミほど分かりやすい人はいないよ」
「……大丈夫だよ、次の次できっと挽回できるよ!」
「ポジティブなのは良いことだけど、スミが挽回するべきなのはもう次のテストだと思うよ」
「……そうだセナ、サバの匂いってなに?」
「……スミは誤魔化すのが下手だよね、昔から。あとそれは今ちょっとセンシティブだから触れないでおこう」
「じゃあセナは、誤魔化すの上手なの?」
「……うーん、どうかな」
言葉に迷うように、それでいて答えは決まっているみたいに。
ゆっくり、伏せられていくセナの目。
「俺はスミに、誤魔化すことなんてなかったから」
……”なかった”。
普通の言葉のはずなのに、なんだかやけに耳に残った。
だって、これからはあるって、分かっているみたいな言い方だ。
なんだかその横顔が、今にも消えちゃいそうな気がして、少し怖くなる。
縋るようにセナ、と短く呼べば、『ん?』って優しい視線が返された。
その表情はもう、いつも通りのセナだ。
……気のせいだったのかな。
でも、私、その笑顔を、前にも見たことがある気がするの。
「……ねえ、夏休み、セナは何するか決めたの?」
その問いにセナはただ、笑うだけだった。



