「そんなことあったんだ……入江先輩って、そんな人だったの? 女には不自由してない感じするのに。見かけによらないってこういうことかね?」
「うん……。私と付き合ってるって、先輩がみんなに言ってるのかな?」
「さっきの井関ファンからの話だとそうだよね。入江先輩がそう言ってたって話してたでしょ?」
「うん……」
「先輩のその執着心が、今は杏に向いてるってこと?」
ゾクッ……私はその言葉に恐怖を感じた。
「……だって私、先輩と付き合ってたわけじゃないし。好きな人が居るって断ったのに……。執着される覚えない。それにもし、付き合ってるなんて噂が先生の耳に入ったら……。先生に誤解してほしくないよ……」
「うん、そうだよね。ちょっと遠回し気味にリクにも聞いてみる。リクじゃわかんないかもしれないけど、入江先輩と同じクラスの人なら、先輩がどんな人なのかわかるだろうし。対処の仕方も見つかるかも」
「ミカ……ありがと」
頭の中がいっぱいだった……。
井関先生のこと。
入江先輩のこと。
現実はどうしていつも、望む方向へ進んではくれないんだろう。
大好きな泉屋のお菓子が、今日はノドを通らなかった。