窓の外の大きな木も、少しずつ色を変え始める。空は高く、青く、吹く風も爽やかな9月の終わり。
私とミカは、泉屋に来ていた。私は頬杖をつき、外をボーッと眺める。いつもの席。
さっきの出来事が、ずっと前のことのように感じる。
「アイツら~! ほんっとムカつく! 何が『井関先生に興味あるような顔しないで』よ! まるで井関先生が自分のもののように言うじゃないよ! 頭きちゃう」
ミカはそう言いながら、ガツガツとあんみつを食べていた。
「ちょっと杏! 頭にこないのぉ!?」
「……ん」
私は気の抜けたような返事しか出来なかった。
彼女たちの言葉以上に、井関先生の言葉が私にはショックだったから。
成績が悪くて先生に説教されたり、彼女たちに嫌味言われたり、そんなこと今までの私なら気にもしなかった。“傷つく”という言葉を私は感じたことがなかった。それくらい私は無気力だった。
私が人の言葉に、こんなにも傷ついたことは今までなかった気がする。
それはすべて、井関先生だから。
あのキスから、先生は私をまともに見てくれなくなった。
どうして……?
いけないことをしたと、先生は思っているの? 先生と生徒だから?
私は嬉しかったのに……。