「せんせぃ……」

 私はその場に座り込んだ。

「杏、どうした!?」

 先生は、青ざめた私の顔を覗きこむ。

 職員室のある本館へ繋がる、3階の渡り廊下。人影はない。

 よかった……すれ違わなくて……。

 先生に会えて、よかった……。

「ぅ……わあぁ」

 私は安堵から、先生に抱きつき大声で泣いた。

 誰も居ない廊下に、私の泣き声だけが響く。

 嫌だったの……。

 私の癖に、先輩が気付いたことも。先生と同じように、私のことを『杏』と名前で呼ぶことも……。

 私の中で、先生が特別だったことが、消えてしまいそうで……。

 すごく、怖かったの……。

「……杏……」