放課後の校内は静まり返っていた。

 ほとんどの生徒が帰り、校庭で部活をしている生徒が残っているだけだ。遠く校庭から聞こえる生徒の声に耳を傾け、私は職員室へ向かっていた。お昼の時間に井関先生のところへ行こうと思ったが、あの『束縛がすごいらしくて』という言葉がずっと引っかかって、結局行く時間を逃してしまっていた。

「杏ちゃん」

 突然、職員室近くの廊下で声をかけてきたのは、入江先輩だった。

「先輩……」

「どうしたの急いで。誰かと約束?」

『束縛がすごいらしくて』さっきの彼女の言葉を思い出す。

「いえ……英語のことで聞くことがあって、職員室に寄ってから帰ろうと思って。それに、提出しなきゃいけないノートもあって」

「英語なら僕が教えてあげるのに。終わるの待ってるよ」

「でも……どれくらいで終わるかわからないから……。井関先生ってば、私が 英語出来ないこと分かってて、難しい問題ばっかりさせるから……」

『束縛がすごいらしくて』あの言葉が何度もリフレインする。

 私はいろいろ話を作り、先輩を避けようとしていた。