カラン……。

 グラスの中の氷が鳴った。

「珍しいねぇ、杏がアイスコーヒー飲むなんて」

 ミカが口を開いた。

 どれくらいの沈黙だったろう。

「うん、なんとなくね……」

 コーヒーを見ると、井関先生を思い出す。

 甘い、甘い、コーヒー。

「どうしたの? 話したいことがあったんじゃないの?」

「うん……あ、入江先輩のこと、リク先輩経由できたんでしょ?」

「うん、そうなんだけどね……杏、入江先輩のこと嫌いなの?」

「嫌いじゃないよ。メールもほぼ毎日してるし、時々英語も教えてもらってるし。ただ……」

「ただ?」

「先輩と付き合うつもりはないの……」

「ふうーん、いいんじゃない、それでも。いつかさ、杏に好きな人が出来るまで、こう言っちゃ悪いけど、キープってことで。入江先輩カッコイイし」

 ニコッとミカが笑った。

「いや……そうじゃなくてね……」

「じゃあ何よぅ。あの手紙をくれた人が入江先輩じゃないから嫌なのぉ?」

「いやいや、あの手紙のことは別件で、入江先輩のこととは関係ないんだけど……」

 私が口ごもるように、ぶつぶつ言うと……。

「もぉう! じゃあ何よ!」

 ミカがキレ始めた。