「先生、ここらへんのこと詳しいの?」
「いや、泉屋がこんな近くにあるなんて知らなかったよ。大通りへ抜ける近道として使う人は多いみたいだけど、時間帯によってはほとんど人はここを通らないからさ」
2人並んで歩くのもギリギリなくらい細い道が、海をぐるっと囲むように続いていた。
少しずつ、少しずつ、夕焼けが赤みを増していく。その様子を先生は眩しそうに見つめていた。
「先生はよくここへ来るの?」
「そうだな。煮詰まった時や、考え事、悩み事がある時、そんな時にここへよく来るかな。教師って仕事も色々大変なんだよ」
「……先生」
「杏の秘密基地じゃないけど、俺の逃げ場所……かな」
「逃げ場所?」
「ああ、俺は厄介な性格でさ、弱みは人に見せたくないって思うんだよ。この間の虫の件は不覚だったな」
「あはは! あのちっちゃな虫が苦手ってやつ」
思い出すだけで笑っちゃう。