「お待たせ致しましたー」

 お店のお姉さんが2人分の冷やし中華を運んで来た。暑い夏は、やっぱりコレ!と、2人して同じものを選んでいた。

「いただきまーす……」

「ん? 杏どうした?」

「紅ショウガが……」

 冷やし中華に付き物なのは知っているけど、この山のような紅ショウガは……。うちでは私が嫌いだから食卓に出ることはほとんどなかったけど。

「嫌いなのか?」

「あんまり酸味の強いのは……」

「まったく。甘い紅茶が好きだからとは思ったけど、紅ショウガが嫌いなんてお子様ですね」

 そう言いながら私の紅ショウガを自分のお皿に移した。

「な! 先生だって砂糖がいっぱいのコーヒー飲むくせに~」

「甘いコーヒー好きだけど、俺は紅ショウガも食べられますからねー」

 私の嫌味を込めた言葉に先生も言い返してくる。

 反撃しようと前のめりになった、その時、プルルとスマホの着信音が鳴った。

 マナーモードにしておけばよかったと後悔する。取り出して見ると入江先輩からだった。

【補習どうだった? もう終わったかな?】

 変わらず毎日のメールは続いてる。

 夏休みに遊びに行こうと、何度か誘われたが、返事が出来なかった。井関先生への気持ちに気付いて戸惑っているのに、入江先輩と付き合うなんて考えられなかった。会うことに抵抗は無いけど、気を持たせるようなこと、私には出来なくて。

「……」

 私は返事をせず、スマホをオフにした。

「どうした?」

 先生が食べる手を止めて、聞いてきた。

「ううん、ミカから。補習どうだったー?って、心配してメールくれたの」

「そうか」

「あーお腹減ったー。いただきまーす!」

 私は嘘をついた。