「先生……誰にも言わないでいて」
「ん?」
「ここは私の秘密基地なの。誰にもバレちゃいけないの」
「……俺には教えてよかったの?」
ドキン……。
先生が私を真っ直ぐ見つめる。
見つめられると、息が止まりそう……。
私は顔を伏せ、コクンと頷いた。
紅茶の入った、グラスを持つ手が震える。
「そう言えば、例の手紙はまだ届いてるのか?」
一瞬止まった空気を戻すように、先生が話し始めた。
「ううん、夏休みに入ったら届かなくなった。今日久しぶりに下駄箱見たけど、何も入ってなかったし。相手も休みだからじゃないかな?」
「そりゃそうだな」
「でも、あのアールグレイが飲めないと、なんだか淋しくって」
「相当気に入ってるんだな」
「うん」
先生も美味しいと言ってくれた、あのアールグレイ。もし夏休みが明けて、アールグレイも手紙も届かなくなったら?
そうしたら……。
毎日、井関先生のところに通う理由も無くなってしまうんだ……。そうしたら先生と私を繋ぐものって、何も無くなってしまうの? ただの生徒と担任で。ううん、それは今だって同じだけど……。
「……杏? 杏どうした?」
「あ……ううん、なんでも……」
そもそも無かった先生との接点。無くなってしまうことが、こんなにも怖いと感じるなんて……。