私と先生は、泉屋に来ていた。

 私のお気に入りの場所。ここはミカにしか教えていない。

 先生は、ガムシロのたっぷり入ったアイスコーヒー。私はアイスティーを注文した。

「へー、ずいぶん渋い店知ってるんだな」

 先生はキョロキョロと、店内を見回しながら言った。

「お母さんに連れて来てもらったことがあるの。それから気に入っちゃって、 何かあればここに居るかな」

「路地1本入ったこの店、静かでいい所だな。外の大きな木も、ここから見ると涼しげで、気持ちよさそうだし」

 井関先生は頬杖をつき、外を眺めた。

 そうなの……この店、この席から見える風景が大好きなの!

「杏は人が多い所や、騒がしい所は苦手そうだもんな」

 井関先生は外を眺めたまま、そう言った。

 そうなの! コクコクと、私は大きく何度も頷いた。

「その通りだって?」

 私の声にならない言葉を、先生が代弁するように笑いながら言った。

 私の苦手なものを理解してくれる。だから、私のお気に入りのこの店に、先生を連れて来たかったんだ。