―ドキン―

 教室にいる生徒達を越えて――。

 少し開いた教室のドアを越えて――。

 囲まれている女子たちを超えて――。

 私は先生と目が合った。

 あ……。

 いつからだろう……苦手だった井関先生を、こんなに考えるようになったのは。

 いつからだろう……苦手だった井関先生を『井関』と呼び捨てから『井関先生』に変わったのは。

 いつからだろう……井関先生に『杏』と名前で呼ばれることが、こんなにも嬉しいと感じたのは……。

 私はパッと、井関先生から目を逸らした。

 ドキン。

 ドキン。

 ドキン。

「井関先生ー、ここも教えてー」

「あー! 私もー」

 井関先生と目が合って、胸の鼓動がこんなにも速まる。

「……」

 井関先生の周りで騒ぐあの子達に、モヤモヤした気持ちが生まれる……。

 気持ち悪い……こんな気持ち――。

 なに、これ……。