「……ぇ、ねぇ杏! 聞いてるぅ!?」

 ミカがいきなり顔を覗き込んできた。

「あぁ、ごめん、聞いてる、聞いてる」

 私は焦って、烏龍茶を一気に飲み干した。

「もぉ~やっぱり杏、なんか変~」

 ぶ~っと、怪訝そうな顔をするミカ。

 ごめん、ミカ……話が耳に入らないよ。落ち着かない……。

 ―チクッ―

 なんだか嫌だ……。

 先生たち、早くどっか行ってくれないかな……。

 廊下で話す先生と女子の声が、一瞬耳障りだと感じた。

 ―チクッ―

 こんなに距離はあるのに、先生と笑い合う女子の声が耳から離れない。

 ―チクッ―

 私はもう一度、そっと井関先生に目を向けた。