「井関せんせー!」

 キャーという声が上がった。廊下には、女子に囲まれた井関先生が見える。いつもの光景だ。どこから集まってきたのかと思うくらいの女子生徒の数。

 あのうるさい連中を軽くあしらうんだから、井関もなかなかやるなと感心してしまう。

 何か質問しているのか、生徒との距離がとても近くに感じる。ノートを見る、伏し目がちの先生。

 そのやり取りが、少し開いたドア越しに見える。

 この騒がしさはいつものことだと知っていたから、そのうるささが嫌で、昼休みはいつも外に逃げていた。一人で食事することも別に平気だし、お昼はミカと一緒なことも多かった。でもこの梅雨、連日の雨で外には出れないし気分も憂鬱。見上げた空からは止みそうにない激しい雨が朝からずっと降り続いていた。

 私はフォークに刺したブロッコリーをパクッと口に入れた。

 そしてもう一度、先生の方を見る。

 今までこんなふうに、あの光景を観察したことなかったなぁ生徒の頭に手をやり、笑顔を向ける井関先生。