「失礼しまーす。井関先生居ますかー?」

「杏、こっちこっち」

 先生が手招きする。

 いつもの時間。人けの少ない放課後の相談室。

 砂糖5杯の甘いコーヒーを飲む、井関先生。

 私の足は自然とここに向かっていた。

 いつの間にか、自分にとって居心地の良い場所になっていた。

 楽しみもない。好きなものもない。無気力だった、私。

 この気持ちの本当の意味を知って、私がこんなにも変わるなんて……。

 この時は考えもしなかったんだ――。