「杏ちゃん、こいつ同じ3年の、入江千明」

 一呼吸置いたと同時に、リク先輩が話し出した。

「こんにちは」

 紹介された入江先輩が、にこっと微笑む。

「こんにち……わ」

 まともに見るのは初めてだ。

 ハーフっぽい整った顔は、かなりのイケメンだ。やわらかそうな栗色の、ちょっと長めの髪がよく似合っている。よくテレビに出ている俳優さんに似ている。

 この人が本当に、私なんかに興味があるの? すごくモテそうだけど……。  何かの間違いなんじゃないかと思ってしまう。

 フロアを何度も行き来する人や、大声で話す人。騒がしい店内。こういう場所はやっぱり私は好きになれない……。なんだか落ち着かず、私はうつむいた。同じクラスの知り合いも居そうで、余計に気が散る。

 でも周りの人たちはお構いなしで、他人のことなど気にしないといった感じの騒がしい店の雰囲気が、今日ばかりはありがたかった。