井関先生がこんな人なんて、きっとみんな知らないよね。

 クールなカッコイイ先生を追いかけている井関ファンが知ったらどうなるかな? イメージと違う!って、みんな怒るかな?

 こんな井関を見れたことが、なんだか優越感。ちょっと嬉しいかも。

 その時、ポケットの中のスマホが震えた。ミカからのLINEだ。

【杏! 今日、入江先輩と会うことになってるでしょ!? どこに居るのよー】

 メッセージを読んで飛び上がる。

 ヤバイ! 忘れてた! 今日の放課後、みんなで会う約束をしていたことを思い出した。

「先生ごめんなさい! 約束あったの忘れてた、帰ります!」

 荷物をカバンの中に押し込む。

「あぁ、手伝いありがとう。気をつけてな」

「はーい」

 ドアに手をかけ、私はもう一度井関先生へ振り返り「先生ー、先生ー」と小さな声で呼んだ。

「え?」

「先生、虫が嫌いなこと秘密にしといてあげるからねー」

「杏!」

 先生は焦るように言った。

 くすくす「サヨーナラー」笑いが止まらない。

 くすくす。なんでだか分からないけど、すごく、嬉しかった。

 私は職員室を飛び出ると、ミカたちの待つ、駅前のファストフード店へ走った。

 その間もにやけた顔は直らなくて、息を切らし走る時間も、先生のあの虫に怯えた姿を思い出すと笑いが止まらなかった。