ガチャーン!
「うわぁぁ!」
井関は突然、持っていたカップを落とし、悲鳴に近い声を上げた。
「なにっ!?」
その声に私もビックリして椅子から飛び上がる。
「虫がっ……」
「虫!?」
「いきなり虫が腕にっ……」
見ると小さな虫が飛んでいた。
「……」
虫って……。
「ぷーっ!」
私は思い切り吹き出した。
虫って、あんな小さな虫って。
「きゃははは」
クールで、大人で、カッコよくて? そんなふうに言われてる井関先生が、小さな虫も苦手なんて……。だってあんなハエよりも小さくて、私にだってパチンて退治出来てしまうくらいの虫なのに。
「カワイー!」
私はお腹を抱えて笑った。
「杏! 笑い過ぎ!」
後ろを向いている井関先生の顔が、心なしか赤く見える。
「小さな虫が駄目なんだ……大きいのならまだ原形もハッキリしてるし。そもそも集合体恐怖症だから、小さい虫が集まっているのも嫌いで……」
先生は焦るように早口になった。
「何、先生ふくれてんの?」
くすくすと笑っちゃう。
「うるさい! あんまり笑うと、例の手紙もう訳してやらないからなっ」
「ぷぷーっ」
可愛い、子供みたい。
「杏!」
「ごめんなさーい」
くすくす。おかしくて、笑いが止まらない。