「井関先生って、やっぱり素敵ねぇ」

 うっとりと井関の歩いて行く後ろ姿を見つめるミカ。

「リク先輩かわいそ~」

 私はわざと言ってみる。

「そういうんじゃないの~。なんていうか、大人の魅力っていうか……イケメン教師って憧れちゃうじゃない。長身のサラサラヘア、細身の眼鏡、モデルのようなスーツの着こなし。学校の先生って恰好がダサかったりするけど、井関先生はちゃんとしてるしねー」

「ふーん」

 確かにみんな、そう言ってるなぁ。

 私たちからすればずっと大人で、話し方も物腰もソフトな気がする。同級生の男子みたいに、ガチャガチャうるさくないし。それに、井関ファンたちがキャーキャー騒いでも、井関は物怖じせずクールに対応してるし。

 私はその取り巻きがうるさくて、すぐその場から退散しちゃうけど。

「ふーん?」

 私が気のない返事をすると、目を細め睨むように私を見るミカ。

「ホントにッ! 杏は感情薄いよ!」

「感情薄い? どういう日本語よ、それ」

「誰かにトキメクとか、夢中になれるもの探しなさいよ!」

 ……いつも言われるその言葉。耳が痛い。

「……探して見付かるものじゃないし」

 ボソッと、口ごもりなから言った。

 そんな私を見て、ミカが何かを思い出した。

「さっき言った、リクから聞いた面白い話! 杏が夢中になれるもの、見付かるかも!」

 そう言うとミカは、また私の手を引いた。

 外はサラサラと五月雨。雲と雲の合間から光が差す。

 私たちは泉屋へ向かった。