ブルル。テーブルに置いていたスマホが震えた。
「もしもし、うん、もう泉屋にいるよ。今どこ? うん、わかった」
「杏、迎えに行かなくて平気?」
「うん、もう着いたって。あ、来た来た」
泉屋の重い木の引き戸を開けて入ってくる。
「井関先生ー、お久しぶりです!」
ミカが席を立ち挨拶する。
「やだミカー、何その挨拶~」
「だってぇ~」
「大石、久し振りだな。いいよ立ち上がんなくて、座りな」
「はい」
「先生、何飲む? アイスコーヒー?」
私はメニューを渡す。
「あぁ、そうだな」
くすくすとミカが笑い出す。
「何よ?」
「だって杏、人のこと言えないじゃない。自分だってまだ、先生って呼んでるー」
「あ、それはねぇ、クセっていうか、なんていうか……」
焦って言葉が出てこない。
「何赤くなってんのよー」
「ミカが変なこと言うからでしょー」
「相変わらずたな、おまえたちも」
先生が私たちのやり取りを見て、笑う。
「えー」
「えー」
私とミカがハモった。
あの時の私には、3人でこんなふうに笑い合えるなんて、想像も出来なかった。