『Dear 杏』

 杏、君の存在を意識したのは、もうずっと前のこと。

 毎朝通るコンビニ、そこで見た杏の姿。

 他の生徒が急いで学校に向かっているのに、そんなこと気にもしないような顔で毎朝立ち読みしていた。

 この子は大丈夫なのか!?

 本気でそう思ったよ。

 担任になって、英語がまったく出来ない、やる気もない杏に、余計そう感じた。

 俺にとって杏は、他の生徒と同じ……それ以上に心配の種でしかなかった。

 でもそれが、生徒という気持ちだけじゃなくなるのに時間はかからなかった。

 杏と話すうち、接するうち、気持ちが増す一方で、教師と生徒という立場や、年の差を消すことが出来なくなっていた。

 だから俺は、幾つも嘘をついた。

 君に謝らなければいけないことが、たくさんある。

 杏と名前で呼ぶことも本当は”篠田”なんて苗字の友達はいないんだ。

 車をぶつけられたという話も、みんなを誤魔化すための嘘だった。

 君は俺のこと、大人でクールだというけれど、そんなこと全然ないよ。

 杏に彼が出来たと知ったときの動揺。

 余裕のあるフリをして、婚約者がいるとまで嘘をついた。

 動揺を隠すため、気持ちを悟られまいと、必死だった。

 杏が思っているほど、俺は大人じゃないよ。

 嘘をついたこと教師として、いけないことをしたと思ってる。

 ただ、わかってほしい。

 気持ちと態度がついていかなくなると、そう感じているのは君だけじゃないと……。

 いくつになっても、人を好きになると、きっとそう感じるものだと思う。

 君を想って俺もそう感じた。

 今まで沢山の嘘をついたこと、そして、その度傷つけたこと、ごめん。

 それでも、ずっと俺を想い続けてくれたこと、ありがとう。

 立場も年も忘れるほどの気持ちをくれた君へ

 From the one that loves you