「叶多に会っていく?」

「え……」

 先生に……。

「……」

 私は頭を横に振った。

「杏いいの? 先生に会えるんだよ?」

「今はいいの……先生が目を覚ますまで、会わない」

 今の私じゃ、まだ会えない。

 これは自分に与える罰。

「これを先生に渡してください」

 私は花束と手紙をお母さんに渡し「ありがとうございました」と頭を下げた。

 そして足早に病院を後にした。

「ねぇ、杏ー。本当に会わなくてよかったのぉ?」

 先を歩く私の後をミカが急いで追い掛けてくる。

「いいのー、いいのー」

 病院の庭に立つ大きな桜の木。

 私は木を見上げた。ピンク色の花びらが風に揺られて舞い落ちる。

 やわらかい春が過ぎ、木々の緑が少しずつ濃さを増すと、初夏。
ねぇ先生、覚えてる?

 コンビニで先生と話したあの日、私の下駄箱に初めて入っていた、アールグレイと英語の手紙。

 あの日からもうすぐ1年が経つよ――。