「杏ー、何号室だっけ?」
「3階、302号室」
街にある一番大きな総合病院。私とミカは、井関先生の入院している病院に来ていた。
井関ファンも毎日のように来ているらしく、目を覚まさない先生の病室へは入ることが出来なくなっていた。
診療棟と入院棟と別れている建物。入院棟の3階のエレベーター前から伸びる長い廊下の一番奥、右手に302と書いてある。
面会謝絶と書いてある、そのドアから花瓶を持った年配の女性が出て来た。
その人と目が合う。
「叶多の生徒さん?」
「はい」
井関ファンが毎日来ているって話だけあって、私たちの制服は見慣れているのかもしれない。
「叶多の母です。ごめんなさいね……まだ会うことが出来なくて」
きっと何人もの人にそう言っているのだろう……申し訳なさそうに頭を下げる姿が、私には重く感じた。
「……私……」
「杏……」
後退りする私の腕を、ミカが掴む。
怖かった……本当はここに来ることが……。
私のせいで先生がこんなことになって、ご家族にどう言ったらいいのか、どう謝ったらいいのか……。