ミカが渋るように話し始めた。

「井関先生が、こんなことになってしまったあの日……先生と入江先輩が1階の廊下で揉めてるところ……」

 あの日……先輩にキスされたところを先生に見られ、学校を飛び出した……。

 あの後?

 私が真っ直ぐ帰っていれば……あんな所をうろついていなければ……。

 先生は……。

「杏……先生は、入江先輩に言ったんだよ。先生が杏にキスしたこと、みんなに話したければ話せばいいって」

「え?」

「あの時、先生はね――」


『俺が杏にしたこと、誰かに話したければ話せばいい』

『……そんなこと言って、教師をクビになってもいいのかよ、先生』

『別に構わない。そのことで入江、お前が杏を縛りつけているなら、もうやめろ』

『……っ、あんた! 婚約者がいるんだろ! あんたこそ、杏に期待もたせるようなことするのよせよ!』

『……婚約者なんて、いない』

『え? じゃああの親し気に話していた女の人は?』

『確かにあの日は見合いをさせられて、その相手と一緒だったよ。でも、その見合いは断ったんだ』

『それは、杏のためってことか?』

『……杏が入江、おまえと付き合って、幸せになれるならそれでいいと思った。だから嘘をついた。でも、おまえが杏を苦しめているなら、俺は許さない。教師という立場なんかどうだっていい』

『井関……』