「杏ー、ミカちゃん来てくれたわよー」
1階からお母さんの声がすると同時に、コンコンとドアがノックされた。
「おっじゃま~、杏、調子どーよ?」
私が停学になって、ミカは毎日のように来てくれる。授業のノートと、差し入れを持って。
「今日はねー、泉屋の豆大福、買ってきちゃった~。杏にお土産を持って行くって話したらお店のお姉さんがおまけしてくれたんだよー。ラッキー」
じゃーんというように袋を高々と上げた。いつもの笑顔と大声で、毎日元気にやってくる。ミカは私を元気づけようとしているのが、よくわかる。
「ミカ、毎日ありがとね」
泉屋なんて、ちょっと遠回りなはずなのに……。
「どってことない、もうすぐ停学も明けるじゃん」
「うん……学校どう? 先生のこととか……」
学校で先生のこと、どう言われているのか、本当は聞くのが怖かった。
きっと私のことで悪く言われたりしているんじゃないかって思うと、申し訳なさでいっぱいになった。
「ん……それがさ……」
口ごもるミカ。
「何かあったの?」
「うん……」
「杏と井関先生が付き合っていたってウワサになってて……」
「え!? なんで私と!? こんなことになって私が悪く言われても仕方ないけど、なんで……」
「……入江先輩が言ったみたい」
「え!? だって先輩……」
「……私、あの日聞いちゃったんだよね……」
「あの日?」