「あれー? 杏、どこ行ってたのぉ? 教室に居ないし、カバンも無いし、帰っちゃったのかと思った」
職員室から出ると、偶然下駄箱にいたミカが声を掛けてきた。
「あー、ごめん。あれ? ミカこそ、リク先輩と帰るんじゃなかった? 今日は一緒に帰れるんだって楽しみにしてたじゃん」
私は誤魔化すようにミカに話をふった。
「そーなのぉ! リクの奴ぅ! 今日は部活が休みだから遊びに行こうとか言ってたくせに、急に部活出ないといけないとかで、ドタキャン! もう、いつもそう! 私より部活の方が大切なんだよー」
聞いて! 聞いて! と近寄って来たミカは興奮気味に話し出した。こういう話も日常茶飯事だ。
「相変わらずだねぇ。リク先輩はサッカー部のキャプテンだもん、仕方ないんじゃない?」
「そうだけどさぁ……」
納得いかないといった感じのミカ。
リク先輩は、サッカー部キャプテンでエース。県内では有名だ。時々、新聞に載っているのを見たことがある。将来はプロになるんじゃないかと言われているほど。サッカーのことは、よくわからない私でさえ、すごい人なんだということだけは、わかる。
ずっと片想いしていたミカは、半年前に告白して、見事彼女になった。
先輩が部活で忙しいのはわかっているんだろう。でも、側に居たいからと、マネージャーになる!とまで言い出し、騒いだこともあった。
”マネージャーが彼女”それは無理と、リク先輩に説得され諦めたようだ。
まだ付き合い始めて半年だもんね。ずっと一緒に居たいと思うもんなんだろうなぁ。
「日曜日に会えるって言ってたけどね」
「なんだ、じゃあいいじゃんよ」
ちょっとキツめに答える。
「もぉぅ! 杏冷たい~!」
そう言いながら、私にへばりつくミカが、可愛いとさえ思ってしまう。