ただ、ただ走った――。

 ここまでどうやって来たのかもわからない。

 すでに街は暗い闇に包まれていた。

 帰る気力もない。私は夜の街を1人歩いていた。

 見覚えのある裏道、先生が教えてくれた海へ続く道。煌々と眩しいくらいのネオンが輝き、その店内からは場違いなほど大きな音が漏れていた。まるで知らない街に迷い込んでしまったような感覚に時々足が止まった。

 ポツ……ポツ……。

 降り出したばかりの雨が頬に当たる。涙と混じって、頬を伝い落ちる。

「……せん……せ……」

 はぁ……白い息が見える。

 寒い……寒い……。

 雨のせいで、ぐっと気温が下がった。

 人気の少ない通り、行き交う人も居ない。