「杏!」

 ビクッ、その声に驚き振り返ると、急いで走って来た様子のミカが立っていた。

「ミカ……」

「杏! 大変なの!」

「え?」

 ミカが私の手をグイグイ引き、教室まで走った。

 その間も、バタバタ走り回る何人もの生徒たちとぶつかる。その様子に、ただ事ではないことがわかる。何があったの!?

 教室に入ると、溢れかえる生徒の数。他のクラスの生徒たちも集まって来ていた。

 教室の前、黒板に群がる生徒たちをかきわけ進む。

 その黒板には――。

 幾枚もの、井関先生と婚約者の写真が貼られていた。

「これ井関先生だよねー? 彼女なのー!?」

「うそー! ショックー!」

「こんなの貼り出したの誰よー!」

 みんなが口々に言う。

 私は、生徒たちの間をフラフラと後ずさりした。

「……杏」

 ミカがぎゅっと、私の腕を掴んだ。

「……なんで……」

「あの写真が学校中の掲示板に貼られているらしくて、もうずっと生徒は大騒ぎなの……」

「学校中!?」

「うん」

 こんな……誰が……。

「井関ファンの誰かが嫉妬からやったんじゃないかって、みんな言ってるけど……」