何をどうするとか、今の状態を変えなくてはとか、考えることももうなくなってしまった。

 ただ、今を生きるためだけに、ただ、息をしているような、そんな毎日に疲れていた。

 偶然、職員室から出て来た井関先生が、こちらに向かって歩いてくる。

「タイミング悪い……」私はボソッとつぶやいた。

 真っ直ぐこちらに向かってくる先生とすれ違いざま「井関せんせー、さよーならぁ~」入江先輩がからかうように言った。

「気を付けて帰れよー」

 いつもの先生の言葉。どんな生徒にもかける、先生としての言葉。

「あ、そう、うちの学校は男女交際禁止って知ってたか?って言っても守ってるやつは居ないけどな」

 振り返ることなく先生が言った。

「じゃあ自分はどうなんだよ! あ、生徒じゃないから、先生はいいんですねぇ」

「先輩!」

「なんか今時変ですよね。生徒に恋愛禁止なんていう学校。教師は好き勝手やってるのに、子供だからいけないっていうんですか?」

「先輩! やめて」

 先輩は先生へ歩み寄り、興奮したように声を荒げた。