以前のように井関ファンから嫌がらせを受けたり、なんだかんだと文句を言われたり、ただうっとおしいって感じるだけで、そんなことぜんぜん傷つくこともなかった。

 それなのに、今はあんな言葉でさえ胸が痛い。

 私が望んだことじゃない。

 ここにいることも、入江先輩の隣にいることも、私は好きでここにいるんじゃないのに……。

「杏?」

「え?」

 先輩の声にようやく気付いた。

「どうしたボッとして」

「あ、ううん、なんでも……。先輩はなんて?」

「雨が続いて、うっとおしいなって」

 一緒に帰るため一階の廊下を歩いていた入江先輩は、窓の外を見てつぶやいた。

「あー、うん、そうだよね」

 まるで今の私の気持ちに比例するように、冷たい雨はあれからずっと降り続いていた。その雨を見上げ、私も大きくため息をついた。