「井関先生いらっしゃいますか~?」

 広々とした職員室に大声で叫んでみる。

「杏、こっちこっち」

 井関が相談室と書いてあるドアから顔を出し、手招きした。

 初めて手紙をもらった時、無意識に井関に手紙を訳してもらっていた。このことを知っているのは、ミカと井関。そして井関なら難しい英語も解る。

 まぁ……ラブレターを他人に簡単に見せてしまったのだから、私も相当失礼なヤツなんだけど。

 だからこそ、もう井関に頼るしかなかった。

「今日の手紙、お願いしまーす」

 いつものように、英語で書かれた手紙を井関に手渡した。

「おー篠田、毎日、勉強熱心だな」

 満面の笑みで声を掛けてきたのは、生活指導の先生だ。背が小さく太っちょの先生は、言葉がキツイという生徒たちの噂通りで、勉強が出来るか出来ないかだけで生徒を判断する。今だって、本当のことなんて知りもしないのに「毎日、勉強熱心だな」なんて。

「はぁ、まぁ……」

 私は差し障りなく、苦笑いで返す。