その場所に着いた時、小雨の中、遠くの空には夕焼けが見えていた。
こっちはまだ小雨がパラついているのに、ここからは空がこんなにも大きく見えて、こちらと向こうでは天気が違うように思えた。
「変な天気」
遠くの空を見つめ私は目を細めた。
『夕焼けの時間にはまだ早いけど』
先生とここへ来た時そう言っていた。先生はこの美しい夕焼けを私に見せたいと思ってくれたのかな……そう考えると、ぎゅっと胸の中をつかまれたように痛みが走った。
私は差している傘を少し上げた。溢れる涙を止めることが出来なくて、空を見上げた。そうすれば降る雨に流されて、涙が消えるような気がしたから。
「杏……?」
突然の声。海を囲むように細く続くその道を、遠くの空を見ながらこちらに向かって歩いてくる人に、ドキンと大きく鼓動が跳ねた。
「先生……」
傘もささず歩く姿。小雨が先生の髪を濡らしていた。