「え? 井関先生?」
私の様子に気付いた先輩が、井関先生に気付いた。
「へぇ……井関先生に彼女?」
「やめて!」
私は無意識に声を上げていた。通り過ぎる人たちが何度も振り返る。
先生に彼女が居てもおかしくない。
私は学校に居る先生しか知らない。
あんな綺麗なヒトが居ることも、あんなふうに優しそうに見つめ合いながら、笑う先生の顔も……私は、知らない……。
「杏……」
「……先輩はどうして私なの?」
「え?」
「先輩は優しいし、とてもモテるし、先輩を好きな女の子はたくさん居るのに……」
「杏、何言って……」
頭が真っ白だった。先輩の声さえも耳に入らない……。
「……先輩がどんなに私を想ってくれても、私は先輩を好きになることは出来ない!」
私がそう思うように、先生もそうなのかもしれない。