「ファストフードも飽きたし、杏何がいい?」
先輩は私に聞くため、傘の中を覗く。
「うーん」
答えようと先輩を見上げた。
その肩の向こう――。
遠く離れた横断歩道の向こう側、人々の間から井関先生が見えた。
「い……」
井関先生……そう言いそうになりぐっとこらえた。
「……」
そのヒトは――誰?
先生の差す傘に入った、腰近くまで伸びる巻き髪の、美しい女性。
ドンッ!
私の後ろから人がぶつかる。いつの間にか信号が青にかわっていた。
「杏? どうした?」
不思議そうに先輩が聞いてきた。
傘がぶつかり、何人もの人に追い越されていく。そしてまた信号が赤にかわった。
「杏?」
私は動けずにいた。