この街に珍しく雪が降った。

 そして雪から雨にかわった午後。午前中で学校を終えた私と入江先輩は街中を歩いていた。

 お昼時とあってか、街を歩く人の多さに時々足が止まる。

「杏、昼どうする? 何か食べてく?」

「そうですねー」

 私は先輩と居ることに少し慣れていた。同じ学校の生徒や他校の生徒に、先輩と一緒に居るところを見られても、なんとも思わなくなっていたから。

 慣れって本当に恐い。あんなに苦痛と思っていたのに、誰に何を言われても平気な自分がいる。この感覚は以前の私のようで、心を無くしてしまったように感じていた。

 交通量の多い大通りにあるスクランブル交差点。信号待ちのため横断歩道に立ち止まる人々。信号が変わると行き交う人たちで傘がぶつかる。

 傘の外にそっと手を出と、ポツポツと手のひらに雨が落ちた。

 寒い冬に降る雨は、意外と好き。

 でも、ピンと張りつめた空気が今の私の心を凍らせてしまったようで、息をすることさえも苦しい。