いつもの朝、下駄箱を開ける。中には何も無い。

 チャイムギリギリの学校は、遅刻寸前の生徒が飛び込み、騒がしい声が溢れ返る。

 それもさえもかき消されるほどの喪失感。

 アールグレイと手紙は、もうここには無い。

 英語がわからないと嫌がってはいても、それでも嬉しかった手紙。

 そして、それ以上に手紙を持って先生の所に行けることが、嬉しかった。幸せだった……。

 しあわせ、だった――。

 ガチャーン!

 キャー!

 女生徒の叫び声が教室に響き渡った。

「篠田さん! 何やってるの!?」

 いけない! 私、今、部活中……。

「誰か! 消化器持ってきて!」

 油の入ったフライパンに火が回ったのだ。真っ赤に燃え上がる炎。

「キャー!」

 生徒たちの叫び声。我先にと調理室から飛び出していく生徒。

「駄目! 水入れちゃ……!」

 羽山先生が叫んだ。1人の生徒が火を消そうと、持っていた水をかけた。すると炎はドンという音とともに更に燃え上がった。その炎に反応した火災報知器がジリリと大きな音を立てた。

 勢いを増した炎は隣にあった布巾にまで燃え移ろうとしている。