「でも、どうなのかな?」

 ビクッ、先輩が私に近づく。

 私の耳元で、私にしか聞こえない小さな声で「先生を好きになっても無駄だよ」そう言った。

 え――。

「井関先生もヒドイね……杏ちゃんに気を持たせるようなことをして」

「……」

 なに……?

「大丈夫、僕は君の味方だから」

「……先輩?」

 そっと指を自分の唇に当て、しーっと言うように……。

「秘密にしていてあげるよ」

「……!」

「2人がキスしてたこと」

 くいっと口元が上がり、先輩は微笑みながら、そう言った。

 まるで悪意の無いような顔付きで……悪魔のような囁きを。

「先生が生徒に手を出したなんてバレたら、井関先生はどうなるかな?」

「先輩!」

「大丈夫、黙っていてあげるよ。言ったろ、僕は君の味方だって」

「……」

 ドクン、ドクンと嫌な胸の音が、重く響く。