生徒の少なくなった週末の放課後。私は入江先輩を、自分の教室に呼び出した。

 誰に見られているかわからない。また誰かにウワサされたりするのは嫌だった。だから外で会うのは避けたかった。

「杏ちゃん、どうしたの? こんな所に」

 メールで指定した時間よりも早く、入江先輩はやって来た。

「ごめんなさい、急に呼び出したりして……」

「いいよ、杏ちゃんのことなら嬉しいからね」

 いつものように先輩は笑顔で、それが違和感を与えているようだった。

「……あの先輩……」

「ん?」

 窓際まで歩いていった先輩が、私の声に振り向く。

「……私と付き合ってるって、みんなに言ってるって本当ですか?」

「うん、そうだよ。どうして?」

“そうだよ”?

「……先輩……私、先輩とは付き合えないって……」

「あぁ、そうだね『好きな人がいる』そう言ってたね」

「はい……」

 何を言っても終始笑顔の先輩に不気味さを感じていた。