「ずいぶん広まってきたね……」
隣で後輩との話を聞いていたミカが、腕組みをしながらため息まじりに言った。
「うん……早く先輩に話さないと……」
学園祭の余韻と自分の夢と、そして先生への想いで今の私はいっぱいで、入江先輩のことがまだ解決されていないことを思い出した。
こんな話が頻繁にされるなんて、私と先輩が付き合っているというウワサが、私の知らないところで着々と広まっていたんだと気付かされた。
「1人で入江先輩と会いづらかったら一緒に行くからね。用心棒にリクも連れてくし。杏に何かあったら大変だしさ」
そう言うと、ミカはVサインをした。
「ありがと。でも、1人で会ってくるよ」
「そう? 心配だけど」
「大丈夫だよ」
「私とリクも校内で待ってるから、何かあったらすぐ連絡してよ」
「うん、ありがと」
ミカやリク先輩にいつまでも心配をかけたくなかったし、今の自分の気持ちとは正反対の、この不安な気持ちを早く消してしまいたかった。
でも、そのミカの言葉が現実になるとは、この時には考えもしなかったんだ。