「篠田先輩」

 私とミカが校内を歩いていると、後輩の女の子に呼び止められた。うちの学校は学年ごとに階も違うし、下駄箱の場所も違う。職員室や他の教室に行く道は幾つもあって、何か特別なことがなければ他の学年の生徒に合うことも少ないはずなのに。

 2年の下駄箱に近いここで呼び止められるってことは、私を待っていたということか。

「ん? なぁに?」

 話を聞こうと振り返ると、何か言いにくそうにもじもじしている様子がみえる。

「あの……友達に3年の入江先輩を好きな子がいて……」

「入江先輩……」

「篠田先輩、入江先輩と付き合ってるんですか?」

「え……ううん、付き合ってないよ」

 そのことを聞かれるだろうと思っていても実際聞くと、胸にズシッとした嫌な重みがかかる気がした。

「でも……みんな、2人が付き合っているってそう言ってたから……噂になってるし……」

「……」

「……」

 ミカと2人無言になり、顔を見合わせた。

 今月に入って何度目だろう。

 こうやって、私をわざわざ待って聞いてくる生徒もいれば、からかうように言ってくる生徒もいた。あまりにも頻繁に起こる事態に正直嫌気がさしていた。