「ねぇ先生、私やってよかった」

「ん?」

「ちょっと料理が出来るからって、なんの自慢にもならないし、でもそれがこんな形でみんなの役に立てるなんて思わなかった。私、料理好きなんだなぁって気付いたし」

「確かに杏、生き生きしてたよな。みんなへの指示も的確で、みんなもそれが分かるから杏の言葉を信じて頑張っていたって感じがするな」

「先生……」

 先生もそんなふうに見ていてくれたの?

「それに杏は楽しそうだったしな」

「うん! 楽しかった!」

 この数週間、本当に楽しかった。

 自分がこんなに料理好きで、オリジナルコロッケを作るのに色々考えたり案を出したりするのが、すごく楽しかった。

「先生……私、料理の勉強してみようかな」

「料理の勉強?」

「うん、卒業したらそういう学校に行ってみようかなって」

「進路……か?」

「うん、あのアールグレイ甘すぎて、みんな不味いって言うけど、私は大好きで。私ってちょっと味覚ズレてんのかな?って思っていたけど」

「そういったら、あの紅茶を美味しいと言った俺も味覚音痴ってことか?」

「あはは、そうだねー。先生は激甘党だもん、かなり味覚ズレてるかもー」

「そうかなー。あれはあれで美味いんだけどな」

「先生おかしい~」

 こうやって話しながら先生と笑い合える。そんな時間がくるなんて。

 2人きりでドキドキする瞬間も、こうやって笑い合える瞬間も、こんなにも胸が高鳴る。