私の文句も耳に入らないくらい、ミカはキャベツの千切りに必死になっていた。

「あぁミカ、そうやって切っても千切りにならないよー」

「だってぇ~、私やったことないもん~」

 ミカは半ベソをかいている。他のみんなも、出来ませ~んという顔で、私を見た。

「……じゃ交代! コロッケの衣付けして。これなら出来るでしょ? キャベツはね、まず半分に切って、それを縦にまた半分。それを斜めに包丁を入れていくと、綺麗な千切りになるんだよ」

 本当は、千切り出来る調理器具なんか使っちゃえば、もっと早く綺麗に出来てしまうんだろうけど。

「へぇ、すごいな。杏にそんな特技があったなんてな」

「先生!」

 私の手元を覗き込むように見る、井関先生。

 やだ……手震えちゃう……。

「なんで、先生来たの?」

「羽山先生に電話が入って、少し戻るのが遅くなりそうだから、様子見に」

 料理部の顧問の先生だ。羽山先生は年配だけど、すごく優しくて、お母さんやおばあちゃんに料理を教えてもらっている気がして、家庭科の授業は好きだった。

「生徒だけにして、ガス爆発とか起こされたら困るからな」

「とか言いつつ、試作品ご馳走になろうと思って来たんだよなぁ、先生」

 後ろからリク先輩も来た。

「リク!」

 嬉しそうに、ミカがリク先輩に近づく。

「教室まで迎えに行ったら、こっちだって言うからさ。そこで偶然会った先生と来たんだよ……ん? なんか臭い……」

 鍋の中はモクモクと黒い煙をあげている。

「ぎゃー、ミカ! 焦げてるー!」

「キャーッ!」