爽やかな風が吹く初夏。高い木の緑の葉が、やわらかく揺れる。

 もうすぐ梅雨入りだというのに、まだジメジメした感じはしない。

 騒がしい教室から離れ、ミカと私は体育館の横の、ちょっと斜がかった芝生に座り、お昼をとっていた。

「で? さっきはどうしたの? 頭を抱えてさ。悩み事?」

 お母さんの手作りというサンドイッチを頬張りながら先に口を開いたのはミカの方だった。

「うん、今朝ね」

 私は今朝の出来事を話した。

 下駄箱にアールグレイと手紙が入っていたこと。その手紙には英語で『あなたを愛する者より』と、書いてあったこと。

 コンビニで井関に会ったことや、その手紙を訳してもらったことなどはミカに話せなかった。秘密にしておくのは、ちょっと罪悪感だけど……。

「えー!」

 ミカは悲鳴のような声を上げた。

「愛の告白ぅ!? 杏、すごいじゃん! 誰からなの!?」

「いや……名前も無かったし。私宛なのかも定かじゃないし……」

「でもそれが本当に杏宛のだったら、素敵よねぇ。あれ? その紅茶……」

 ミカが、私の手に持つ缶の紅茶を指さしながら言った。

「うん、このアールグレイ」

「だって、その不味いアールグレイ、杏がいつも飲んでるやつじゃない!」

「……不味いアールグレイって……」

 確かにみんな甘すぎてマズイって言う。だからこのアールグレイを飲んでるなんて、私だけかもって。それを知っている人が、あの下駄箱に入れたってことだよね?

「もーそれ、確実に杏にだよー! だって、そんな不味いの杏が飲んでるのしか見たことないもん!」

「……」

 すごい嫌味言われてるけど、なぜか許せてしまうのがミカのすごいところだ。