「……。お迎えに……来てくださったのですか?」
「家を飛び出したと思えば、男との逢瀬か」
晋太郎さんはゆっくりとうつむくと、その目を閉じた。
「言い訳は聞かぬ、そこに直れ」
濡れた刀の柄に手がかかる。
「何をなさるのです!」
「言い訳は聞かぬと言った。そこに直れ」
とっさに、店の主人はぬかるみにひざまずいた。
「誠に申し訳ございません! 此度の御無礼、どうかお許しください!」
「かような事態、見過ごすわけには行かぬ。覚悟はよいか」
「お待ちください!」
私はその人の前に、両手を広げ立ちはだかった。
「何をお考えですか、おやめください!」
「志乃、そなたも同罪か?」
見たこともない顔をこちらに向ける。
「何の罪があると言うのですか! まずはその手をお納めください!」
「これ以上かばい立てすれば、そなたも斬らねばならぬ」
「ならばお好きになさいませ!」
雨が降りしきる。
私はここを引くわけにはいかない。
「お待ちください!」
店の奥さんが駆け込んできた。
主人の隣にひざまずき、ぬかるみに額をつける。
「奥さまは迷子となったうちの息子を届けてくださったのです。そのお礼にと、お屋敷までのお供を申し出たのでございます。奥さまをお斬りになるというのなら、息子を迷い子にした私をまずお斬りくださいませ!」
冷たい雨が降りそそぐ。
吐く息が白く流れた。
晋太郎さんの手が柄から離れる。
「帰る」
二人に一礼をし、急ぎ背を追った。
降りしきる雨の中、その人はこちらを一度も振り返ることなく歩き続ける。
町の往来を仕切る木戸門をようやく通り抜けた。
霧雨は濃さを増し、足元には泥がはねる。
土産の品を包んだ風呂敷も、ぐっしょりと濡れていた。
闇夜に白壁の通りが浮き上がる。
このまま家の門をくぐってしまったら、私はどうなるんだろう。
この人は、どうするのだろう……。
雨を吸い重くなった着物が、私の足を止めた。
「家を飛び出したと思えば、男との逢瀬か」
晋太郎さんはゆっくりとうつむくと、その目を閉じた。
「言い訳は聞かぬ、そこに直れ」
濡れた刀の柄に手がかかる。
「何をなさるのです!」
「言い訳は聞かぬと言った。そこに直れ」
とっさに、店の主人はぬかるみにひざまずいた。
「誠に申し訳ございません! 此度の御無礼、どうかお許しください!」
「かような事態、見過ごすわけには行かぬ。覚悟はよいか」
「お待ちください!」
私はその人の前に、両手を広げ立ちはだかった。
「何をお考えですか、おやめください!」
「志乃、そなたも同罪か?」
見たこともない顔をこちらに向ける。
「何の罪があると言うのですか! まずはその手をお納めください!」
「これ以上かばい立てすれば、そなたも斬らねばならぬ」
「ならばお好きになさいませ!」
雨が降りしきる。
私はここを引くわけにはいかない。
「お待ちください!」
店の奥さんが駆け込んできた。
主人の隣にひざまずき、ぬかるみに額をつける。
「奥さまは迷子となったうちの息子を届けてくださったのです。そのお礼にと、お屋敷までのお供を申し出たのでございます。奥さまをお斬りになるというのなら、息子を迷い子にした私をまずお斬りくださいませ!」
冷たい雨が降りそそぐ。
吐く息が白く流れた。
晋太郎さんの手が柄から離れる。
「帰る」
二人に一礼をし、急ぎ背を追った。
降りしきる雨の中、その人はこちらを一度も振り返ることなく歩き続ける。
町の往来を仕切る木戸門をようやく通り抜けた。
霧雨は濃さを増し、足元には泥がはねる。
土産の品を包んだ風呂敷も、ぐっしょりと濡れていた。
闇夜に白壁の通りが浮き上がる。
このまま家の門をくぐってしまったら、私はどうなるんだろう。
この人は、どうするのだろう……。
雨を吸い重くなった着物が、私の足を止めた。