日はすぐに落ちた。

重く湿った空気が肌にまとわりつく。

急に下がった気温に体は震え、また飴湯を飲んだ。

生姜の香りがツンと体を温める。

すっかり遅くなってしまった。

参道は祭りの前から大変な賑わいだ。

屋台が立ち並び、ついつい目移りしてしまう。

華やかな熊手に混ざって、招き猫も売られていた。

『千万両』や『千客万来』に混じって、『来福招福』の文字も見える。

人の願いはいつだって変わらない。

そうだ。

買い物に出かけると言って出たのだから、なにかお土産を買って帰らないと……。

お義母さまとお祖母さま、お義父さまには何がいいかしら。

家の者にもなにかちょっとしたものを、それと、あの人にも……。

屋台の品々を見て回る。

あの人の好みそうなものはなにかしら。

最奥の部屋にあったものを思い浮かべた。

河原で拾った小石に小枝、すり切れたカルタや古い独楽……。

ふっと笑みがこぼれる。

やっぱりあの人に贈って喜ぶようなものなど、私には分からない。

あの人にとって、きっと私はつまらない人間だったのだろう。

見ず知らずの連れてこられた女より、自らが心から愛した人の方が、よいに決まっている。

自分でもはっきりと、そう言っていたではないか。

嫁をとるつもりはなかったと。

だとしたらやっぱり私はあの人の望む通り、あの人自身の思いを遂げさせてやることが、一番の幸せなのではないのか。

あの人のことを本当に思うのなら、あの人の本当の幸せを望むなら、あの人の本当の願いは、ただ静かに珠代さまを思って日々を過ごすことなのだから……。

霧なのか雨なのか分からないような天気になった。

家路を急ぐ人々も増え始める。

間もなく日も沈む。

私も帰らないと。

橋を渡ろうとしてつまずいた。

転びはしなかったが、その場に立ち止まる。

橋の上で子供が泣いていた。

三つか四つくらいの幼子だ。

通り過ぎる大人たちは誰も見向きもしない。

「どうしたの? 何を泣いてるの?」

声をかけたら、どうやら道に迷っているようだった。

「どちらから歩いて来たのですか? お名前は?」

涙と鼻水を拭いてやり、手を握る。

ぎゅっと握り返す小さな手の、その力強さに驚いた。

あぁ、この子はこんなにも心細かったのか。

握りしめるその強さは、あの人と少しも変わらない。