大通りに出て、ようやく歩みを緩めた。

乱れた息を整える。

一人歩きには慣れている。

すぐに人混みに紛れた。

これはどんな世の巡り合わせなのだろう。

お天道さまのなさることは、いつも不思議だ。

手にした巾着には何も入っていない。

手ぶらで会いに行くわけにもいかないから、何か買って行かないと。

ふと目に入った店先に、金平糖があった。

これならあの人に贈るにも、恥ずかしくないかもしれない。

気持ちばかりのそれを買い求めると、また歩き出す。

その時の心細さを救ってくれたのは、あの人だった。

私はここで初めて恋に落ちた。

うめと二人、道行く人に尋ねて歩いた。

この辺りだということは分かっていたが、確かな場所は知らない。

大きな縁日が開かれる前の、そわそわとした町並み。

誰に尋ねてもはっきりとした返事は得られず、あの橋のたもとでしゃがみ込み、途方に暮れた。

数日後に控えた祭りの備えに参道沿いの店はどこも忙しくて、仕入れたたくさんの品々は、荷車にのせられ軒先へと運ばれてゆく。

提灯、のぼり旗、吹き流し。

甘い香りと醤油の香り、人いきれ。

誰もが忙しくて、わくわくして、まもなく訪れる大きな祭りを前に活気づいていた。

「坂本晋太郎に、どのようなご用件か」

疲れ果てうずくまった私たちに、一人のお侍さまが声をかけてきた。

「文を届けるよう、言いつけられております」

その人はじっと私とうめを見下ろした。

届けておいてやろうというのを、頑なに断る。

「主人から必ず、必ずご本人に直接届けよと仰せつかっております!」

嫁入りの決まった娘が、輿入れ前にそのお相手をのぞきに行くなど、ありえないこと。

決してこちらの正体を知られるわけにはいかない。

「晋太郎どのは、今は屋敷にはおられぬ」

「ではどこに?」

「妙善寺へおいでだ」

辺りを見渡す。

この近辺に寺のありそうなところはない。

だけど、知らぬお侍の屋敷を探し出すより、寺への道を聞く方が遙かに尋ねやすいだろう。

心許ないが、その言葉を信じるより他にない。