「昨夜はお話しできずに、申し訳ありませんでした」

前を向いたままそう言った晋太郎さんに、私は首を横に振る。

流れる雲を見上げていた。

それだけでも、ほんのり暖まる。

この人は大きなあくびをした。

「実は、昨晩は結局寝られなかったのです」

「何かあったのですか?」

「……。あなたが、足元で寝ていたので……」

「それがどうして寝不足に?」

晋太郎さんはそれには答えず、わずかにうつむいて頬を赤らめた。

「眠たくてたまらないので、少し休んでもよろしいでしょうか」

「えぇ、どうぞ」

すぐ隣でごろりと横になると、あっという間に眠ってしまった。

すっかり動かなくなってしまった晋太郎さんに羽織りをかけ、そこを後にする。

夕餉の席では、普通に話せた。

「今日のごぼうは、私が炊いたのです」

「そうですか。よく味付けがされています」

「少し砂糖を多めに入れたのです」

「えぇ、とても美味しいですよ」

何気ない話でも、普通に続いているのがうれしい。

勇気を出して奥の部屋へ行ってみてよかった。

もう少し自分の方から話しかけてみても、いいのかもしれない。

そんな私たちの様子を見た義母が、ふいに口をはさんだ。

「で、あちらの方は順調なのですか?」

「あちらの方とは?」

隣の晋太郎さんは、突然味噌汁を吹き出した。

ごほごほとむせている。

「早く孫の顔が見たいと言っているのです」

「えぇ、そうですよね」

結婚したんだもの。そりゃそうだ。

「ほどよい頃を見計らって、神さまはちゃんと授けてくださるものと思うております」

「え?」

同時にそう言った晋太郎さんとお義母さまは、それぞれにそれぞれの顔をして、めちゃくちゃに私を見てくる。

「だって、そういうものでございましょう?」

義母の顔は真っ赤になった。

「そ……、それには、それなりの努力をしなくてはなりませんよ?」

「えぇ、もちろんです」

私は晋太郎さんを見上げた。

「ねぇ、そうですよね?」

「当たり前じゃないですか」

私の隣でその人は急に姿勢を正し、背を伸ばす。

「当然です」

そう言って椀の汁を一気にあおった。

「いずれ、自然に授かるものと思うておりますが……」

「ならばよいのです。みなまで聞きたいわけではございませんので」

義母はごほごほと咳払いをしてから、やっぱり一息に味噌汁をあおる。

その仕草は二人ともとてもよく似ていて、やっぱり親子なのだなと思った。