お義母さまとお祖母さまの目を盗んで、奥へと忍んでゆく。

そっとのぞき込んだ部屋で、晋太郎さんは畳に寝転がっていた。

藍色の濃い小袖姿に、晩冬の日が降り注ぐ。

寒くはないのかな。

この人は冬でも板戸を開け放ち、何もない土の庭を眺めている。

その人は私に気づくなり、起き上がった。

姿勢を正すと、自分の正面に座るよう勧めてくる。

それに素直に従ってはみたものの、私の顔は間違いなく寒さと緊張で赤らんでいた。

何を言われるのだろう、どう返事を返せばいいのだろう。

そのことだけで頭は一杯なのに、晋太郎さんはじっと目を閉じ、腕を組んだままうつむいている。

「祝言の席での無礼に関しては、お詫びします」

昨日のお出かけのことか、箪笥のことかと意気込んでいたのに、想定外の滑り出しだ。

しかも目の前にいるこの人は、私ではない別の誰かに腹を立てているよう。

「あなたはここに嫁に来たのであって、使用人や奉公人などではありません。それはちゃんと私も分かっております。あなたもそうですよね? あなたはこの家の嫁であって、決して奉公人などではないのです。最初にきちんとお話をしましたよね。あなたはご自分のお好きにしてよいのだと」

沈黙が流れる。

雀が一羽やって来たかと思うと、すぐに飛び去った。

私は仕方なく口を開く。

「えぇ、そうです……」

「あなたは私の目から見ても、嫁としての務めをきちんと果たしております。そのことには、しっかりと感謝しております。あなたは私の立派な嫁です。私に対して、なにか母の言うような不満でもありますか?」

首を横にふる。

この人は一体何に、イライラとしているのだろう。

「そうでしょう。なら何も問題はない。母の心配は全て杞憂です。なにかあれば、いつでもどこでも遠慮なく、私におっしゃってください」

目が合った。

「ではもう結構です」

ふいと向いた横顔に、つい口を挟んだ。

「お話しとは、このことだったのですか?」

その人のまぶたがピクリと動いた。

そのまま私をじっと見つめている。

私はきっと、何かを言わなければならない。