「っあー……」

目をあけた男性が声を出し、それに反応して彼を見た。

彼は仰向けで空を見ている。



「……死ねなかった、のか」



周りは血の海で赤黒い中、彼の目からは透明なものが流れた。

心臓を鷲掴みされたような気分になる。

今の発言、あれは……。


「行くよ」


成田さんが僕の手首を掴んで立ち上がらせて無理やり歩かせる。

彼女の命を削ったというのに。

あの男性は死ぬことを望んでいた。



――自殺をするために、飛び降りたんだ。


どうして、そんな人に……。


「もう誰にもあげないで」
「ん?」
「どうして渡すの?さっきみたいなこと言われて嫌じゃないの!?ムカつかないの!?」
「ムカつかないよ」
「僕はムカつくよ!君があげた命なのに、あんなこと言うなんて」


ムカつく。
すごいムカつくよ。

彼女が生きるはずだった貴重な1年を望んでいない人が手に入れるなんて。


「生きたい人がこの世にどれだけいると思ってるんだ。死にたいやつは死ねばい……」
「瑞季くん!!」


感情が高ぶった僕のセリフを成田さんが止める。

過激なことを言おうとした。
ほぼ口にしたあと。

たぶん、成田さんはそんなの聞きたくないんだ。

でも僕はどうしてもムカつく。

命を粗末するような人に、成田さんの生きるはずだった1年が渡ることが許せない。