並んで歩いていた足を止める。
だけど、すぐに成田さんが僕の手首を両手でつかんだ。
「もう!そんないじわる言わないでよ。いじわるじいさんかよ」
引き止めようとしている人のセリフではないな。
成田さんらしいっちゃらしいけど。
踵を返し足を一歩踏み出す。
「ごめん、嘘だって!許して!」
すぐに謝って掴まれた手首を引っ張る。
けっこう力が強くて踏み出した一歩は元の位置に戻る。
「瑞季くんがそんなにわたしの話を聞きたいとは思わなかった。ちゃんと話すから」
「そんな話してないけど」
「えっとね、この手紙はわたしの好きなアイドルへのファンレターなんだ。この前観た映画がすごすぎて思わず感想と愛を書き留めちゃった」
僕の話を無視して話し始める。
成田さんはいつでもこうだから、もう慣れてきた。
慣れるほど一緒にいる時間が増えていることは想定外だったけど、今はもうそれにすら違和感を覚えなくなりつつある。
「この時代、手紙書くんだ」
「ネットが普及した今だからこそ、手書きの手紙って響くものがあるよね」
「そういうもんか」
手紙はもう何年も書いていない。
というか小さい頃もあまり書いた記憶がない。
小学生の時とかも女子はよく手紙交換とかしていたのを見たけど、男子はもっぱら定規戦争ブームだった。
だから手紙交換とかしたことないな。
「書いてあげるよ」
「え?」
「瑞季くんに手紙」
「書くことないでしょ」
「あるある。超大作期待してて」
手紙に超大作とかあるのか?
よくわからないけど、好きにしたらいいよ。
今回の僕も、否定も肯定もしない。
「ガンバレ」
気持ちのこもっていないエールを送る。
成田さんはそれでも嬉しそうに笑って大きく頷いた。
そのまま他愛ない話をしながら郵便局へ向かう。
着いてすぐに窓口で切手を購入した成田さんは、早速封筒に切手を貼りポストへ投函した。