ここまで回避したんだからもう大丈夫だろう。

だけどその夜、おばちゃんの家で火事が起こり、旦那や息子は助かったけどおばちゃんだけ帰らぬ人となった。

僕なりに精いっぱい頑張った結果が、運命を変えられないという事実を証明した。

その時の光景を今でも鮮明に思い出せる。

僕の努力を嘲笑うように、パチパチと音を立てながら天に向かって上がる炎。

煙が僕の心にまで入ってきて真っ黒になる。


「変えられなかった」


久しぶりに思い出してむせ返りそうになる。

苦しい。呼吸の仕方を忘れる。

死、が怖い。


「じゃあ、なおさら周りの人と関わらないとね」
「……え?」
「大切にしないと」


にこっと微笑む成田さんは僕の今の感情と真反対。

どうしてこんな時に笑うんだ。


「死を怖く感じることは悪いことじゃないよ。瑞季くんは必死に、生きてるんだね」


優しすぎる温かい声に何も言えなくなった。

確信をもって言うから、そうなのかもしれないと思いそうになる。

もう、成田さんのペースだ。


「……どうだろうね」


間をあけてから曖昧に返す。
やっぱり認めるだけじゃ癪だから。


「どうしても変えたいならわたしが変えるよ」


それはもしかして、と成田さんの思考が読めてしまった。


「瑞季くんが見て、わたしがその人にあげたらいい」


やっぱり。

成田さんの考えが容易に読めたから、次の言葉は準備してあった。


「却下」
「何で!?いい考えだと思ったのに。わたしたちぴったりじゃん」
「どこが。全然よくないから」
「変えることができたら、瑞季くんの不安は減るんじゃないの?」
「減らない」


もう変えられるところは見せてもらった。

だけど、同時に成田さんの死が近づいているところも見ている。

よくないよ。


「もうあげないほうがいい」